TDM - トウキョウダンスマガジン

YOSHIBO・Lockingの神様
とすると日本人ダンサーに必要なものは?
うん、やっぱり音楽の勉強もしたほうがいいと思う。どんなジャンルでもいっぱい聞いて、ロックでもジャズでも、はたまた邦楽でもね。そうやって得たものを、じゃあ自分はどう表現するかと考えた時、ストリートの土俵的に手直しすると。日本人って踊っている時にあんまり音楽聞いてないし。ステップ先行で、ビートの取り方も「タン・タン・タン・タン」しかない。どうしてもカウントで踊っちゃうんだよね。でもこれに慣れるとカウントでしか踊れなくなるし、アクセントの取り方も一緒になっちゃう。そうするとその人の踊りを全体的に見ると、なんかパッとしないんだよね。で、これは素人の人ほどわかると思うんだ。僕らは踊りが好きだから「あ、あの踊りはああだよね」とか言えるけど、そういう知識がない人の目だと辛いと思うよ。だから僕らはプロ相手に踊るわけじゃないから、いろんな人を引き込めるように、「俺も(私も)あの世界に行きたいな」と思わせるように勉強していかないと…そう考えると音楽の勉強をして、音楽をしっかり聴いて…どんな曲だっていろんな楽器使われてるでしょ。ドラムだけじゃなく他のパーカッションがあったりベースがあったりギターがあったりピアノがあったり、いろんな楽器使っているじゃないですか。ワンツースリーと一辺倒のカウントだけにまとめちゃ勿体ないし寂しいし。それを表現するんだったら、身体のいろんなパーツを使っていろんな雰囲気を表現したいし…。かっこいいかどうかはさておき、クリエイティビティのあるオリジナルのものを、ダンサーより一歩進んで、アーティストとして目指したいところだよね。

あと、やっぱりどんなジャンルでもそうなんだけど、自分の身体ってうまく使いたいのにイメージ通り動かないじゃない。だから、首だけ動かすとか、部分部分を頭で考えるってんじゃなく、自分が思った瞬間に、感じた瞬間に身体全体を使って何かをするというか、それを強く意識すればいいと思う。まぁノリを大事にする、ということなんだろうけど、特に複雑なことでもないし誰にでもできると思う。例えば同じ曲を使っても、曲調によっては僕は全然ノリが変わる(違う踊りになる)のね。曲に自分が振りをつけるのではなくて、曲が振りを作るみたいな…。
幻のダンサー
今までの長い歴史の中で印象に残るダンサーはいますか?
みなそれぞれ印象深いんだけど、一人強烈な思いでのあるダンサーがいますね。博多出身で「横浜のケンちゃん」という人。もうそれこそ神様みたい(笑)。ケンちゃんは横浜のbase(米軍基地)でショーをやっていたんだけど、もう黒人大喜びっていうくらいの人。博多にもちょくちょく遠征に来てましたね。もともと高校時代にバイトしていた博多のトリップってclubで知り合ったんだけど、ケンちゃんは俺にとってはキーマンだったね。来るたびにいろいろな情報や新しいステップを持ってきてくれる。横浜には米軍の基地があるから、そこにアメリカの軍人がステップを持ってくるんだろうね。ずいぶん勉強になったと思う。

ケンちゃんの逸話はいくつもあるけど、思いで深いのがコレ。ある時「横浜のケンちゃんの弟子」っていう人が博多に来たんですよ。「誰?」と見てみたら黒人がいる(笑)。これにはびっくりした。黒人の弟子もってる日本人ダンサーってそうはいないよね。「お前の師匠ダレよ」と聞いたら「ケンチ」とかいうから「お前、俺は兄弟子ぞ」っていってやりました。でもそいつもものすごくうまくて、悔しいから「お前、黒人の踊り日本人に習うなよ」って言ってやったんですけどね(笑)。まあそういう人。もうずいぶん音沙汰なしで、今なにやってるかも分からないんだけど、会いたいですね。
若い世代に
最後に、これからダンスにどっぷりとハマッていく若きダンサーに一言お願いします。
一人のアーティストとして身体を動かしてパフォーマンスするときに、自分のオリジナリティをどこまで入れられるか、そのスタンスでダンスをやったら?と言ってる。いろんなことを勉強しました。けど、自分の土俵はここにあるんで、ここで勝負します、と、そういうことを自分の中に作って欲しい。勉強をしていろいろ取り入れるのは大事だけど、それをそのまま出したからといって、いいものができるとは言えないしね。もちろんいろんなものをMIXして新しいものを作ってもそれもまた個性の1つなんで、それでもいいとは思う。結局は自分がいい踊りできればいいわけだから。まぁ自分を信じて自分の道を進んでいって欲しいですね。

あと思うのは、今の時代のいいところはビデオがあって、自分の踊りも見れるし何回でも巻き戻してチェックもできる。そのかわり集中力がなくなってしまっている。当時は誰かの踊りをビデオで撮れるわけじゃなく、これ一発しかないシーンをその場で覚えなきゃならないんです。だからステップが正確でなくても「これ逃すと後はないぞ」というのがあったんで…人間の記憶ってあやふやじゃないですか。僕はソウルトレインのステップをあの頃見て覚えたんだけど、今ビデオを取り寄せて見てみたら結構間違ってるんですよ。でも、ノリだけはきっちりおさえるし今見ても間違ってなかったんですよね。そういう集中力というか、絶対モノにする、みたいな気持ちを大事にして欲しいですね。
ジャンルやスタイルといったものにまったく固執されず、フィーリングやノリを重視されていて、非常に柔軟な考え方をしている人だな、という印象を強く受けた。Yoshiboさんのレッスンを受けた人のコメントの中に、「上半身と下半身がばらばらに動くような感じで、自分のやっていたロックとずいぶんと違う」というものもあった。Yoshiboさんが長く培ってきたものはこれからも若い人に新しい感動を与えていくのだろう。
'99/05/05 UPDATE
Interview : AOYAMA(DDF) / Text : RYOTA MUSHA
← Back123

Back Number