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黒須洋壬 「THE MUSEUM」 〜 I love LIVE. 〜
黒須洋壬 「THE MUSEUM」 〜 I love LIVE. 〜
ダンサー界では言わずと知れた存在、黒須洋壬。彼の描く世界観、演出によって、これまでどれだけの著名ダンサーが演者としての才能を発揮し、“ダンサーとして生きる魅力”を見出してきただろうか。イメージが鮮明で立体的で色鮮やかであれば、あとは具現化する作業。その細かな指示の元、ダンサーはその役を演じることができる。彼の仕事が早いのは彼がその全体を把握しているから。今回黒須洋壬構成・演出による最新公演「THE MUSEUM」を前に、彼のアンテナに触れてみた。彼のてがける“美術館”・・・どんな世界が飛び出してくるのか楽しみだ。

黒須洋壬 「THE MUSEUM」 〜 I love LIVE. 〜黒須洋壬

“THE CONVOY”のオリジナルメンバー。振付家として、郷ひろみやSMAP、安室奈美恵、黒木メイサといった数多くのアーティスト、CM、映画などの振付けを手掛ける。また映画「菊次郎の夏」「デボラがライバル」、TV「踊る!さんま御殿!!」「探偵左文字進12」「十津川警部シリーズ42」、ブロードウェイミュージカル「CHICAGO」などにも出演。


黒須的マイケル考察。

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そもそも黒須さんがダンスを始めたきっかけから教えてください。

黒須

中学生の頃にジョン・トラボルタ主演のミュージカル映画『グリース』(Grease)を観たときに、踊りが好きだと思って、高校生のときにマイケル・ジャクソンを見て、やり始めたのがきっかけです。

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私も映画「THIS IS IT」を見て、彼がエンターテイナーとして発信してきたメッセージを感じているところですが、黒須さんから見て、当時と今とのマイケルに違いはありますか?

黒須

彼のすごいところは、自分のやっていることに意味があって、なによりもアーティストとして、高いレベルでの踊りをメジャーにしたところ。歌だけでは表現しきれない部分を、パフォーマンスとして、世界レベルでダンスを打ち出してくれた。

マイケルは晩年ゴシップもあったし、波乱万丈な人生だったと思う。僕ははっきり言って最後のロンドンでのライブをあまり期待をしていなかったんです。10年前のツアーが、ダンスの切れも衰えててあまりよくなかったから。でも、「THIS IS IT.」を見て、本当に今回のライブに対して真剣だったし、ちゃんと取り組もうとしてたんだってことが伝わってきて・・・。「マイケル、ごめんなさい!」って思いました。3回観ましたが、毎回泣きましたね。

ダンス以外にもアンテナを。


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同じエンターテイナーとして黒須さんの演出力というか表現力、総合力には、いつもすごいアイデアがあり、楽しませていただいています。今回の舞台はどういう感じなのでしょうか?

黒須

今回は、まず最初に浩子ちゃんとちびちゃん(青柳)から企画をもらったので、それからどうするかを練ることから始まりました。

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それからアイデアが生まれるまではかなり早かったとお聞きしましたが?

黒須

いや、僕的にはあまり早くはなかったんですよ。同じ時期に発表会や、名古屋の芸術祭(2009市民文芸祭)参加公演の演出をしたりしていたので。その公演には當間里美、U★G、都めぐみにも出てもらって、キャバレーをモチーフにした作品を出したんですが、審査員特別賞を頂きましたよ。

演出に関してはいろいろ分けているのですが、自分のやりたいことは「XROSSACT」(黒須氏主催ダンス公演)でやって、今回の「THE MUSEUM」に関して言えば、浩子ちゃんとちびちゃんから「美術館を訪れたようなダンス公演ができないかな?」という話をもらってから産み出していくし、発表会はスタジオの色が出るような演出を考えていきます。


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素材をしっかり見て、どう料理するかを考えるんですね。

黒須

そうですね。「すごくやりたいな」って思う演出で、踊りとなると大事になるのはやっぱり曲。ダンサーとして何がやりたいかって今は生音でやってみたいんですけど、なかなか予算の関係とかもあって、既成のものに頼らざるを得ない。そうなると、タワーレコード、HMV行きまくりです。

iPodには7000曲くらい入っているので、いろいろ聞いて、合いそうなものをピックアップして、流れを作っていきます。順番としてはコンセプトがあって、その後にタワーレコードやHMVが来ますね (笑) 。

あとは、ダンスをするならダンスだけ!って感覚になりがちかもしれませんが、お芝居を観たりダンス以外のことにもアンテナを張るようにしています。

僕は、やっぱり演出が好きみたい (笑) 。


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こうして説明していただいて、それでもやっぱり、頭ではわかっていても、なかなか誰もが他人を魅了できたり、審査員特別賞を取れる演出を、そうそう生み出せないと思うのですが・・・。

黒須

最近思ったのが、僕は、やっぱり演出が好きみたいです (笑) 。業界の仕事はいろいろやっているけれども、発表会や今回のような舞台でダンサーと直接関わることが好きですね。ダンサーは一番表現してくれると思うし、自分の演出だけでなく、曲の力や、振付してくれる人の能力にも助けられている部分も大きいです。

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今のダンサーは昔と環境が変わって、ただ上手いだけではない、プラスαが必要な気がするのですが、今後ダンサーに必要とされていく要素、表現者としての才能はどういうものだと思いますか?

黒須

何事も一つだけではいけない気がします。特に日本はそうなんですが、一つのジャンルしかしない。

たとえばYOSHIEちゃんを見ていると、彼女の引き出しの大きさや、皆を魅了できるのは、いろんなダンスをやってきたから。僕が昔、福岡のワークショップに行くと、彼女とMICHIEちゃんが必ず僕のすぐ左右後ろにピタッと張り付いてきました。僕はジャズのレッスンをやって、彼女たちはストリートをやっているけれども、吸収できるものは何でも吸収する姿勢が現れていましたね。

だから、僕はYOSHIEちゃんはダンサーというよりも表現者だと思う。そういう人が増えたら、もうちょっとダンスの未来は明るいのかなって思います。アメリカのダンサーの奥深さはずっと昔からバレエをやっていたりする部分にあるし、そういう自分の才能の伸ばし方を若い人も見つけられたらいいと思うな〜。

舞台はスタッフが大事・・・世界観を広げてくれる。


黒須

やっぱり舞台はスタッフが大事。今回衣装をKETZに頼んでいるんだけど、ああいうセンスのある人と話すと、自分の持っていた世界観がまた広がっていく。音響のGUTCH-Gさんもずっと昔からの付き合いで、相性がいいというか。そういう自分と共感してくれる人材が周りに増えてきてるかな。

浩子ちゃんはよくしゃべるし、全てが早いですね。この間も、“この期間は沖縄に行ってるよ”って伝えてあったのに、毎日公演についてのメールが来たから (笑) 。でも、それっていいことでもあって、思いついたらすぐにその考えを伝えてくれるから、早くことが進められる。もう15年くらいの付き合いになるけど、あまりそこは変わってないなぁ。3年前くらいからやっと浩子ちゃんとの会話の中で、自分の意見をサッと発言できるようになりました (笑) 。

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今回のキャストはどういう基準で決まったんですか?

青柳有厘
(以下ちびた)


もともと決まっていた人が何人かいて、あとは黒須さんに決めていただきました。

黒須

今回、見てくれる人には開場してから帰るまで、あたかも美術館を訪れたような感覚になって欲しいなと思っています。美術館にはいろんな作品があるし、観る人はそれぞれの順番で観たりしますよね。浩子ちゃんとちびちゃんからの企画をもらったときにジャズだけだと、そういう自由度の高い表現に制限が出てしまうかと思い、先ほどのダンサーというよりも表現者としての感覚をわかってもらえそうな人を選んでみました。

実際、僕が観たことがある人っていうのが前提だけど、実際一緒に2ヶ月以上も稽古に取り組むわけだから、それができる人。そういった意味では悩んだ部分もあったし、すんなり決まった人もいました。

ちなみに今回ポッピンのメンバーを入れたのは、違ったことをしたいっていう気持ちと、面白い表現ができそうだと思ったのと、僕がポップが好きだから。たまに柳君のレッスンを受けるんですけど、面白い。今回の挑戦のひとつは、彼らが踊りやすい音楽とは違う世界での表現になるから、それがどう表現として活かされるのか・・・チャレンジですね。

ちびた

黒須さんからポッピンを入れると聞いて、それまでジャズだけで美術館を表現することに、なんとなくしっくり来ていなかった感覚がしっくり来ましたね。ポッピンって絵画に近い表現のダンスのような気がして。

黒須

今回はいいダンサーが集まってるし、いい振付師たちもいる。美術館に来たような作品の集まりにしたいと思うので、一つ一つの作品が見せ場になると思います。

ちびた

あと、見所は“石川浩子、出産後、初の本格的なダンス復帰作!”というところですね。この2ヶ月は育児放棄だと言っていました (笑) 。

黒須

浩子ちゃんは一番多く出ますよ。香盤は僕が決めたんだけど、浩子ちゃんだけ1曲くらい多く出る予定です。何も言ってこないからいいのかなと思って (笑) 。

あとは説得するのが大変だった柳氏にも注目ですよ。

ちびた

最初に我々のイメージを伝えたときに、簡単にはウンと言ってくれなかったんですよね。

黒須

彼はアーティスト気質を持っているから、そこは僕の好きなところでもあるんだけど、彼のポッパーとしての見え方にすごくこだわりがあるんです。説明だけじゃわからないだろうから、具体的にこちらが今回描いている画を実験してみるために、東急ハンズでいろいろ買って、イメージに近い衣装を作って、柳君の家にポッパーの子を呼んで、衣装を着てもらって「こういうことをやりたいんだけど」って見てもらったら「いいじゃん!」ってすごく気に入ってくれた。ノリノリでした。

そうやっていろんな違う畑の人たちとやって広げていかないと、やっぱりダンス界の未来がないと思う。ダンス公演とかを打って、一般の人たちにも広めていかないといけないなといつも思いますね。

ちびた

ミュージカルを観に行く方たちは日本にもいっぱいいるのに・・・。ダンスで素敵なものを作っている自負もあるんですけどね〜なかなか難しい。

黒須

日本がそういう文化圏だと言ってしまえば仕方ないけど、今回のようなダンス公演をやり続けるしかないんじゃないですかね。ライブの強さがあると思うので。

僕が参加しているTHE CONVOYでは毎回新しいことをやっているから、満足してくれるお客さんが多いです。そういうパフォーマンスのことをわかっている人たちがやり続けるしかない。

今、韓国のエンターテイメントシーンはそうなりつつあるらしいですね。アンサンブルをしていた人がそこで認められたら、次は主役に抜擢されたりする。韓国にはいい熱が渦巻いてるらしいです。

ちびた

ストリートダンスだけで劇団のように舞台が継続的にできていると聞いたことがあります。

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一般を巻き込むといえば、ダンスを習う人の幅も広くなっていますよね。

ちびた

確かに。この間やったダンスの公演のときに、スポーツクラブとかに通っていて、今まで発表会とかに出たことがない、ほとんどご年輩の方たち20人ほど、ナンバーで踊ってもらったんです。その方たちの頑張るパワーには感動しましたね。リハには一番に来ますし、ものすごく緊張していたし(笑)。かつての発表会みたいな雰囲気で、こんなに頑張って、こんなにダンスが好きでやっている方たちに心から感動しました。

今回の「THE MUSEUM」にもその方たちは旦那さんや友達と観に来てくれると言ってくれていて、ダンスとまったく関係のなかった一般の人たちが観てくれることは嬉しいですね。

平坦な人生なんてない。 いかにポジティブに考えていけるか。

TDM

ダンス人生の中で転機になった出来事ってありますか?

黒須

たくさんありますが、マイケルと仕事がしたくて、アメリカに4年間行ったことがあります。最初の2年はLAにいて、オーディションをいっぱい受けました。でも、上手くいかなくて、仕事もクビになったりしました。ビザの関係で日本に帰ってきましたが、もうダンスを辞めようかなと思ってましたね。そんなときに出会ったのがCONVOYでした。

それから芝居や歌に興味を持っていきました。しばらくして脱退などしましたが、その時期に、たまたま観に行ったCONVOY SHOWでメンバーの一人が肉離れを起こしてしまったんです。公演はあと1回残っていて、楽屋に行ったらリーダーが「どうしよう。。。黒須、出ちゃえば?」と言われて、急遽次の日に出ることになりました。次の日までに全部覚えてやったそのときが、今までで一番緊張したパフォーマンスです。それでCONVOYに戻るきっかけができました。そんな感じで転機は3〜4年周期で来ますね。

ちびた

すごい運命ですね。その日に観に行かなければCONVOYに戻っていなかったかもしれないですしね。

黒須

そうそう。平坦な人生なんてないし。いいときも悪いときもあるからそれらをいかにポジティブに考えていけるか。昔はネガティブ思考だったんだけど、そのままだと嫌な気持ちが溜まっていく一方だから、いかにどんどん解決していけるか、ですね。

TDM

では、最後に黒須さんの今後描いている展望はありますか?

黒須

まだぼんやりなんですけど、これはXROSS ACTとしてやりたいなと思っているのは全部オリジナル。話も、曲も、演奏は生バンド、それをダンサー中心でやりたいなとは思ってる。

2008年、日本人メンバーでの「CHICAGO」に出たとき、ACTシアターだけで30公演以上やった。普通そんなにやったら飽きるんだけど、あの時は飽きなかった。なぜかと思い返したら、生バンドだったから。打ち込みよりも音が生きてるから、自分のダンスも毎回いい状態に持っていけていた。やっぱり生音はいいと思った。それを小箱でもいいからやってみたいですね。

TDM

そのときもまたぜひ取材させてください!「THE MUSEUM」も楽しみにしています!今日はありがとうございました。
'10/01/28 UPDATE
interview and photo by AKIKO&imu
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