TDM - トウキョウダンスマガジン

群青
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取材当日、体調を崩していた群青。どうやら「熱い」という。ただの熱かと思いきや、その熱は、今の群青を精神的に燃やしているものだった。2007年5月には、コンテンポラリーダンスカンパニー、H・アール・カオスによる舞台「ドロップ・デッド・カオス」に出演するなど、ストリートダンスにとどまることなく、その表現者としての可能性を発揮し続けている群青。彼に起こった化学変化とは…?

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NYの地下鉄にて(2006年2〜5月滞在)
ダンス甲子園の影響を受け木之本町でダンスを始める。1997年よりBRONXのメンバーとしてダンス界に強烈な影響を及ぼす。BRONX解散後、東京を中心に活動新たにPerfect Combustionを結成し新境地を切り開く。2001年「B-BOY PARKソロバトル」優勝、「三度の飯よりBREAKIN3on3」優勝、2003年「BATTLE OF THE YEAT WORLD FINAL」BEST SHOW、2004年「BATTLE OF THE YEAT」イタリアゲスト、「FREE STYLE SESSION」日本代表、「TOTAL SESSION」 (フランス) 世界1位、アクエリアス、マクドナルドのCMや、ユニクロ店内スチールモデル、Right Onソロ出演。そして、2007年5月にはコンテンポラリーダンスカンパニー、H・アール・カオスによる舞台「ドロップ・デッド・カオス」に出演。ダンサーという枠を超え、表現者としてオールラウンドに活動している。

出るチームに対して、いちいち自分のスタイルをカメレオン的に変えてた時期があった。

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最近はどんな感じなの?

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頭ん中がずっと熱いんすよ。あの舞台 (=「ドロップ・デッド・カオス」※プロフィール参照。) の最中からずっとなんですけど、実はあの舞台終わった後、全身に蕁麻疹ができて。最初は「俺は熱い男なんだ!燃えてるんだ!」ってポジティブに捉えてたけど、「ちょっと燃えすぎやろ。もう、燃えるもん何もないよ。」ってくらい熱い (笑) 。

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意識と体がいろいろ転換しようとしてるのかな。

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クイーンズにあるホームステイ先の近くにて
こんだけ頭の中がごちゃごちゃしてるのはやっぱり踊り、特に自分のスタイルのことだと思う。この間まで舞台やってたし、休んだ後、FIRE WORKS※1でイベントに出たのね。2003年の“BATTLE OF THE YEAR”で、BEST SHOWを取ったネタをリメイクしてやろうっていうことで、練習したんやけど、あの時とはまた全然違う気持ちでできたし、久しぶりにがっつりブレイキンができて気持ちよかった。
あとは、“Ring”※2だったり、“TSUCHI”※3だったり、“NECKBORN”※4もやし、もちろんこの間の舞台みたいなんも好きやし…。

一時期、出るチームに対して、いちいち自分のスタイルをカメレオン的に変えてた時期があったんやけど、「それは違うな、どこに出ても自分は自分でいいんやな」って感じた。いつもどおり同じことをするのは誰でもできるし、毎回変えてたらお客さんの反応の面白さも薄くなると思う。だったら、そん時はそん時で入りきった自分も自分やさかい、そういう自分を見せたいなって思ってた。最近やってるボディドラムにしても、Ringの時しかやってない、かといってRingでブレイキンのバトルをやることもない。コンテンポラリーのあの静けさの中で踊るのも、他ではできないことやし…。やから、何をこんなに悩んでるかというと、それを早くひとつにしたい。いろんな今まで吸収してきたことを、早くひとつにしたくて、それがイライラしてる感じかな。

※1 FIRE WORKS
…ISOPP, 群青, O-HASHI, FUTOSHI, RANMA, YOU-KEY, おかだっち, JBの8人で構成されるブレイキンチーム。2003年Battle Of The YearでBEST SHOW受賞など。


※2 Ring (リング)
…KOJI (ALMA) , SENBA, PINO (ALMA) , KENJI (PINOCCHIO) ,群青, BAN, MITSUで構成されるチーム。ジャンベやドラムを使った生音とリズムの融合を魅せてくれる。

※3 TSUCHI (土)
…NAO (SO DEEP) , GO (SPEED STA) , 群青で構成されるユニット。まるで土の上踊っているかのような土臭い独自の世界観が魅力。


※4 NECK BORN (ネックボーン)
…JUN (カポエラジャポン) 、コンテンポラリーダンサー辻本知彦、そして群青で構成されるユニット。


最初はDJから。遊びの延長にダンスがあった。

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いろんな群青を観てきても、群青は群青だと思うよ。そもそも何でダンスをすることになったの?

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最初は姉ちゃんに「ダンス甲子園」を見せてもらってっていう感じやった。中学の時に新聞配達したりして、DJ機材を買ったから、最初はDJから始めて、高校くらいまではミックステープとか作ってた。
当時は、ヒップホップの音も何もなくて、親父の持ってた (もんた & ブラザーズの) 「ダンシング・オールナイト」とかでこすって、「お、なんかこれストリートな感じなんちゃうん〜。」って (笑) 。そこからだんだんレッドマン (Redman) とかウータン (Wu-Tang Clan) 買ったり、オールドスクールにはまった。

でも、曲は聞いてたけど、ヒップホップとかよく知らなかった。当時の遊びは、机に穴あけて川で使う網をぶっ差して、網の先を切って、リングにしてバスケしたり、BMXしたり、そういう延長にダンスがあった。ニュージャックもロックもやってたし、ロックなんて、トゥエルが1回でいいのを知らなかったから、脇を開いて三回くらい回してた (※右写真参照) 。とりあえずグルグルな感じ出てるっしょみたいな (笑) 。

それから、ブレイクダンスは、後のBRONXってチームのKAZUさん※5が俺に目をつけてくれて、ちょくちょく大阪に遊びに行くようになってから。その時は中学生で「期末テストの勉強でカズマくんち泊りに行ってくる〜」って嘘ついて、終電で大阪行ってイベント出て朝一で帰ってくるような生活。ブレイキンってこんな感じなんだ〜ってくらいにしか思ってなかった。今思えば、熱心に技とか練習してなかったな。ウィンドミルとか、トーマス、スワイプス、今よくやってるボムとか、自分に合ってるパワームーブはやってきたけど、結局自分にあったスタイル的な動きの方が面白かったかな。
そのうちにバトルに出会って、ずっとバトルをやって、東京に来てパーカン (=Perfect Combustion) をやって、パーカンはみんな自由に動き始めて、「俺は何ができるかなー。あ、太鼓とか好きやなー」って太鼓を真剣にやって…。

※5 KAZU
…日本に一大ブレイク旋風を起こした元「BRONX」のリーダー。過去に「ぼけ & ツッコミ」、「TEAM OHH」で活躍し、現在は「I LOVE FOOTWORK」として大阪を中心に活動している。

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群青を見てると、何かを創ってるような感じがすごくする。だからこそ精神的にぶつかることもあるんだろうね。自分の中ではダンスをどういう存在で見ていきたいのかな?

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群青ダンサーには2種類いると思う。すごいストイックにやる人と、楽しんでる人。自分はそのどっちもしたいなと思ってるさかい、技術も楽しむだけじゃ伸びんかもしれないし、ブレイキンに関していえば、楽しむだけなら絶対怪我を避けようとする。でも、スキルをもっと上げていこうと思うと、やっぱり怪我は避けられん。これは、俺がずっとこだわってることなんやけど、絶対ブレイキンでパクリの意味のバイト (bite) をしたことがない。自分で技をクリエイトしたい。だから、ビデオとかで誰かのかっこいい技を見ておくと、手の付き方とかにナビがある。でも、自分のイメージでしか考えてない技は何のナビもないから、「できるやろ」って思ってて、思いっきり怪我することもよくある。

2 on 2バトルってあるけど、最近は、その4人の脳みそをくっつけて、4つの発想で1つの表現をする方が面白いし、為になるなって思う。この間までコンテンポラリーをやってたけど、コンテンポラリーのダンスの創り方とか、曲の取り方とか、相当おもろいことしてるって思う。

「音の取り方とか、実際取ってるのかどうかとか見ててわからんやろ?」彼らは音にものすごい敏感で、例えば、単に音で終わるところを、動きではめようとした時に、

「群青君、終わるの早いよ。」

「いや、早くないっすよ。もう音がないじゃないですか。」

「音の余韻を引きずった、見えない音を聞かせて。」

って言われて「何?何?それは!?」って思ったこともあった。曲が終わったところの、音にぶつかってイメージで動く、っていうことらしい。音だけのところに決めるんじゃなくて、消える音に当たってから、間をためたりね。

コンテンポラリーって、“最も新しい”っていう意味。コンテンポラリーをやってから、ストリートダンスを見ると、ストリートダンスって表現がストレートで、わかりやすいことをやってるなって感じる。だからこそかっここいいし、むっちゃ好き。でも、音楽も、ダンスも、何でもそうやけど進化していく。ストリートダンスは昔から、合わせやってソロやって…って、みんな決められたレシピの中ででしか動いてないなっても思えてしまう。もっとぐちゃぐちゃにしてもいいんじゃないかなって。でも、俺もそれを一人じゃできないし、まだちゃんと表現できてないなってわかってる。

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今回、コンテンポラリーのステージを作るに当たって、ストーリーの説明とかはされたの?

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群青されてない。「だから、群青君はすごい」とか言われたけど、俺は説明して欲しかった。でも、教えてくれんさかい、聞きもせんかったけど。そしたら終わった後、「群青君がこの空気の中で、どんな風に触発されてやってるのかを見たかったから、あえて何も言わなかったんだよね。」って言われた。「でも群青君が自然とはまっていってくれたからよかった。あまりにもはみ出したことをしそうだったら言ってたけど、それがほとんどなかったから大丈夫だった。」って。 俺は、一生懸命雰囲気とか波長を合わせてた。全体的にスローの動きの中で、俺は早い動きが多いから、まず全部の技を見せて、そこからしっくりするものをチョイスしてもらって、俺が納得できないものだけは変えてもらったりしつつ、創っていった。

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ダンスに対する意識の違いを感じるところはあった?

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群青うーん、単刀直入に言うと、彼らは全てをさらけ出してるっていう感じかな、それも全部。もちろん、ストリートダンサーも全力を出してると思うけど、ショウ中に疲れてるところって、お客さんは見たがらんやろ。でも、彼らは、舞台上でぶわーって踊りきって、腕が上がらんくらいの状態になって、そこから手をつきながら起き上がって、お客さんを見る。かといって、彼らがダラダラ踊ってるわけじゃなくて、ものすごくストイックっていうこと。そういう全体の姿で魅せるんだよね。それが好きとか嫌いとか、かっこいい・かっこ悪いとかじゃないけど、そこまでされるとドンって響くよね。だから、そういう意味を含めて、俺があの舞台で、ストリートダンスの良さを、どこまで出せるかなって思った。俺の悩んでたところは、“どこまでこだわって、こだわり過ぎずにいけるのか”っていうところ。見つめても見つめすぎないように。見つめすぎると、いろんな余計なことまで見えてくるから、大体こんな感じっていうくらいの方が、あんまり悩まずに、いろいろ吸収できるんかなって思った。だからこそ、公演中はあんまり悩まんようにしてた。こだわり過ぎると、雁字搦めみたいになるからね。でも、こだわらん奴見ると腹立つやん (笑) 。その狭間だね。

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今回はどういう流れで依頼されたの?

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Drop Dead Chaosカオス (=H・アール・カオス) の演出・振付家の大島早紀子さんがたまたまブレイキンの全国大会を観にきてて、「あの子、1人だけ違う動きしてる。」っていう風に俺が引っかかったらしいんだよね。もともと、俺はカオスの舞台を観たことがあって、NYタイムズが選ぶ“ダンサー・オブ・ジ・イヤー”に選ばれたり、世界で活躍しているすごいカンパニーってことを知っていて、「この人ら、マジですごい!」と思ってた。やから、この話をもらった時も、不安はなかった。コンテンポラリーが嫌いやないから、できたんやと思うし。

初めてカオスの舞台観た時、インスパイアされまくって、本番観ながらノート取りまくった。ノートの見開きがぐっちゃぐちゃに埋め尽くすくらい、いろんな動きが思いついたから。俺のスタイルですごくこだわってるのが、足で刀捌きをイメージしてることで、日本独自のものやし、バトルなんやから、チョコチョコ動かさずに、思いっきり切る様に蹴った方がかっこいいと思ってやってる。初めてカオスを観た時に、それと同じようなラインが手とか足ですごく印象に残ってて、自分と近いなって感じてた。だから、この話が来た時、「実は俺、カオス観てましたよ。」みたいなことで、お互いたまたまくっついたんだよね。もともとあの人らの動きが、自分の中には存在してたってことになるね。

リハーサルもえぐいで〜 (笑) 。アザだらけで「やりすぎやろ!」ってくらいやってるもん。ワイヤーでずっと吊るされて、降りたら何事もなかったかのような顔して踊る。あの舞台は今回で終わりやけど、終わりたくないなぁ。もっとやりたいよ。いろんな人からの評価を聞きたい。


やっぱり自分の中にはブレイキンがでかくある。

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ダンスは人あってのものやと思う。ダンスだけでよかったら、山にこもって踊ってたらええと思うし。良かったなって思うショウでも、いい評価がもらえんかったり、逆に自分が悩んで苦しんで出したものの方が、めちゃくちゃ評価が良かったりする。その自分の中でのバランスが崩れてるんかな。だから、久々にFIRE WORKSで素直ないい反応をもらって、素直に嬉しかった。確かにブレイキンって伝わりやすいし、わかりやすいんやろなって思う。でも、いろんな見せ方があって、それに気付いたのが、太鼓とかでリズムを追求し始めてから。いきなり最初に強い音は出さず、力の抜きを使ったりして、だんだん用意ができてから、ドカンと盛り上げるかっこよさもある。ブレイキンしかしてなかった時は、自分の中でマックスにやって終わることしかしてなかった。そのマックスのところだけで勝負してた。でも、今は人のマックス以外の部分も見るし、マックス以外の部分も見て欲しい。でも、お客さんはそのマックスが欲しいのかな…とか、その繰り返しで悩むけど。

結局、自分との闘いだね。今までずっとバトルだけやってきたけど、今はそういうのじゃないことを一生懸命やってて、それで見えてきたこともでかいから、それはそれで良かったと思う。勝ちとか負け、良い・悪い、すごい・すごくない、上手い・下手とかだけで見るもんじゃないしね。予選落ちした人の中にだって、良いダンサーはいっぱいいる。でも、何も知らない人は勝った人にばかり目がいく。もちろん、勝った人に注目するのは悪いことじゃない。けど、それだけじゃない。 今は、とにかく、この胸の中にあるぐちゃぐちゃなものを、1回整理せーへんとあかんと思うし、今まで芽を植えて、少しずつ水をあげてきたものを大事にしたい。Ringのルーティンで習うハウスのステップができひんから、一生懸命練習したり、ハウスを聞いたり見たりしてると楽しそうやな、踊りたいなって思う。

何より自分の中にはブレイキンがでかくあって、この間FIRE WORKSでショウをやった時も、それをすごく感じた。しかも、終わった後みんな「むちゃくちゃよかった!」って素直に言ってくれた。「俺はずっとこれをほったらかしてたんか〜」みたいな考えも自分の中にあるけど、それは違う。今まで腐るほどバトルをやってきて、世界でも賞とか取って、いろんな人と出会って、話が来たら自分でやりたいと思って引き受けてきたことだから、けして間違いではない、って言い聞かせてる。ただ、改めて感じるのは、自分がブレイキンで評価されてる時が一番安心する。でも、俺はそれだけじゃ満たされなくて、だからいろいろやってて、今は究極のいろんなものを武器にしてしまおうと思ってる。今後いろんなことをやってくにしても、中途半端に終わってしまうんじゃなくて、「化け物やな」って自分でも思えるくらいまで納得したら、別の道を考えるかもしれん。けど、今は踊りのことをちゃんとせんとアカンと思う。実際、俺はやりたいことをいろんなチームを通して、たくさんさせてもらってる。ただ、実際“群青”っていう個人を見た時に、そこがすごくイライラするんやと思う。そんなこんなで今頭が熱いんやと思うけどね。

interview by AKIKO
Photo by 松山悦子imu
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