TDM - トウキョウダンスマガジン

ASTERISK特集
飯塚浩一郎*上野暁子 〜 an epoch-making thing 〜
舞台「ASTERISK」特集 飯塚浩一郎*上野暁子 〜 an epoch-making thing 〜
来る5月18日(土)〜19日(日)、東京国際フォーラムにておこなわれる進化系ダンスエンターテイメント「*ASTERISK(アスタリスク)」。国内外で活躍するトップダンサーが集結し、今までにない“ストーリー×ストリートダンス”が融合された革新的なダンス公演だ。今回ASTERISKの脚本を手がけた飯塚浩一郎氏と、キャスティングを担当した上野暁子との対談の模様をお届けしよう。彼らが込めた熱いメッセージが観客、そして未来にどう届くのか・・・本番を前にワクワクしているようにも見えた2人の共鳴しあう志を感じていただきたい。

飯塚浩一郎

コピーライターでありダンサーでもある、世界で唯一の存在。言葉と身体を両輪に、アート・エンターテイメント・ビジネスの間を自由に横断するクリエーター。広告クリエイティブではカンヌ広告祭シルバー・アドフェストゴールドなど受賞多数。Hakuhodo Dance Business Project リーダー。DAZZLEではダンサーだけでなく脚本家・プロデューサーも務め、ダンス界に次々に新しい発想を提案・実現している。

上野暁子(AKIKO)

LAST TRAIN GETTER社のプロデューサー兼取締役社長。ダンス歴15 年。ダンスイベント出演やインストラクターもこなす現役ダンサー。ダンススタジオのコーディネート、クラブイベントのオーガナイズ、「トウキョウダンスマガジン」の編集など、ビジネスとしても15年以上のキャリアを誇る、業界でも数少ないダンスビジネス・プロデューサーの一人。

上野暁子、キャスティング哲学を語る。

AKIKO

ASTERISK1998年から続くトウキョウダンスマガジンですが、“TDM”でインタビュアーとして登場していた私が、“AKIKO”としてトウキョウダンスマガジンに登場するのは、初めてです。

浩一郎

すばらしい。ASTERISKのキャスティング・プロデューサーとして、トウキョウダンスマガジン初登場するとは。

AKIKO

キャスティングだけは、得意です!と言わせてください〜。(笑)

浩一郎

僕も遊びに行っていたダンスイベント“スタンバイ ”の頃から考えると、キャスティング歴・イベントオーガナイズ歴は10年、20年…?

DANCE STAND BY (ダンススタンバイ) :
1996〜2001年、横浜CLUB HEAVENで行われていたダンスイベント。若手から大御所まで毎回30チームほどのショウケースで構成され、当時のダンサーの登竜門的なイベントだった。

AKIKO

当時21歳からだから…16年目かな。スタンバイはMIHOBOOが中心になってやっていて、私はDANCE FLASHを、REALTIMEは2人でやってました。

浩一郎

そう考えると、スタンバイをオーガナイズされていた頃って、かなり若かったってことですよね。僕があの時19、20歳とかでしたから。

AKIKO

当時はCO-IN LOCKERSさんとか、JUNGLEさんとかに出ていただいていたけども、内心は「本当すみません!私みたいな小娘が!!!出ていただいてもよろしいですか!?」みたいな感じだった。

そもそも、ODORIYAやTIMESというイベンターを仕切っていた小林さんに「オーガナイザーをやってみないか」と言われたのがはじまりでした。

私は小林さんのイベントでスタンプ押しを手伝っていた時に、対応をしてるのを見ていた小林さんが、「お前、上の人にも下の人にもあまり差のない対応ができるから、たぶんオーガナイザーに向いてるぞ。とりあえずやってみろ。」と。

最初は「無理無理無理無理〜!!」でした。スタンプ押すのとは、わけが違いますから。でも、悩んでいた時に小林さんに「お前な、運というのは人生3回しか通らないんだ。1回通った時にそれを運と気づけるかどうかは自分次第だ。」と言われて、「それって結局やれってことを言いたいだけじゃん!」と思いつつ、「今、運が通り過ぎようとしてる?」と思って、やろうかなと思いました。

いいなと思ったダンサーに“またお願いしたい、また観たい!”っていう気持ちになるのが原点ですね。

浩一郎

“スタンバイ”の後はどういう流れなんですか?

AKIKO

“スタンバイ”と“リアルタイム”というイベントを一緒にやっていて、2000年にはWORLD WIDEがはじまりました。

浩一郎

DABDABはいつからですか?

AKIKO

WORLD WIDEと同じ年から。WORLD WIDEといとこのイベントとしてはじめて、WORLD WIDEのステージがオーバーグラウンド、DABDABのクラブはアンダーグラウンドに行こうぜ!って感じでしたね。今、DABDABは年に1回のマイペース開催で、WORLD WIDEは年に2回。DABDABは、“クラブで何するの?”っていうチャレンジだったな。

浩一郎

そう思うと、この間のKETZさんとコラボしたDABDABは、クラブ空間を超えてましたよね。

AKIKO

次は何をどこでやるの?って感じだよね(笑)。

ダンサーだけでなく、一般の人にも向けたイベントオーガナイズ、キャスティングをしはじめたのは、ヘアショーとか、東京ディズニーシーでの企画からかなぁ。

浩一郎

最近だと、エルメスのイベントもキャスティングを担当してましたよね。

AKIKO

そうですね。浩一郎くんもそうだと思うけど、ダンサーがお金をもらえる仕組みと、企業から求められていることのバランスを考えつつ、常にクオリティを上げていきたいですね。妥当な金額はいくらなのか。どれくらいもらえたらやりがいにつながるのか。予算がない状態が多いけど、今後のためにやらなきゃいけない努力が必要な状況はよくあるね。

浩一郎

ダンサーが求められる機会はここ10年くらいで圧倒的に増えたんじゃないですかね。単価はそんなに変わってない気がしますけど、数自体は増えてる感じがします。でも、その分ダンサーも増えてるから、1人に回ってくる仕事の量が増えてるかと言われると「?」という感じもある。

AKIKO

世間がダンサーの存在に対して後押しをしてくれてるような流れはあるので、誰がどう後押しされていても、嬉しいことだと思うよね。自分が仕事をどう取っていくかに関しては、「この人にお願いしたら信頼できる」というところに相談するってことになるので、その時にできる環境作りで、できるだけストレスなく、みんなが楽しく、ハッピーになれる状況の人間が、相性とかもあるかもしれないけど、そういうメンバーと一緒に仕事に取り組んでいけるように、自分自身の含め、いろいろ研ぎ澄ましていきたいですね。

例えば、ファッションショーだと、ビジュアルも大事だけど、雰囲気とか、あとは、やっぱり品が欲しい。はっちゃけるところや笑いの要素もあるといいなとか・・・そういったバランスやいろんなことをここ数年浩一郎くんには相談に乗ってもらっていますね。

浩一郎

今、話を聞きながら思いましたが、“スタンバイ”の頃から、AKIKOさんのキャスティングやイベントには品がありますよね。ヒップホップカルチャーのダークで少し暴力的な感じではない、怖い感じがなくて、健康的というか、いわゆる悪い感じのイベントではない。オシャレなクラブイベントって、当時はすごく貴重だったと思います。

AKIKO

ありがとうございます。嬉しいです!

今回のASTERISKもそうなんだけど、イベントって、人の心、モチベーションを集めることだから。スタッフも、出演者もお互いに、感謝とリスペクトがあってみんなが同じ目標を共有していければ、素敵なイベントになっていきますね。 その何気なく一緒にやれることが嬉しいことで、誰かだけでなく、みんなで毎回感じ合っていけるのは理想ですね。

何をやっても賛否両論あるのは承知ですが、悪い事実が起こった結果、何かネガティブなことを言われたりするのも、それはもう気に留めない。

そのスタンスでいる中で、悪口を言われたような感触で伝わるよりも、「こうなったらもっと良くなるってことだよね?」とか「だったらこうもできますよ!」とか、そういう気持ちで言葉を発してもらえるように伝えたいし、自分が発する言葉もそういう言葉でありたいなって思う。

そういう時間が日頃から積み重ねられていくと、さっき浩一郎くんが言ってくれたような環境のイベントになるのかなと。

浩一郎

・・・すごい。上野暁子、キャスティング哲学を語る、ですね(笑)。


AKIKO

平和だよね〜(笑)。

“踊りと仕事”という二面性。



AKIKO

ASTERISK浩一郎くんは、第三者的な視点というか、客観的でもあるし、社会的にどういう価値観の中で、規模、内容、作り方がその物事を取り巻いているのかを考える視点をお持ちだなと思います。

浩一郎

やっぱり、ダンスと広告代理店という仕事を2つやっていると、それだけで2つの視点がありますからね。 広告業界の人にだって、外から見たら理解できない特有の世界観や価値観があるだろうし、2つあるというだけで、外側からの視点を持つことができる気がします。外から見ると「それってかっこいいことじゃないよな〜」っていうことも、内側にいると気がつかないこともありますからね。

AKIKO

あとは、浩一郎くんはやっぱり真面目だよね!

浩一郎

このASTERISKに参加している皆さんもそうだと思いますが、やっぱり、真面目じゃなきゃダメですよね。

性格や生活が真面目じゃないことはあるとしても、その人がある理想を描いて、そこに向かって真摯に頑張らないと、ASTERISKに呼ばれるようなすごい人たちにはならないだろうし。そういうダンサーはノリだけじゃなくて、ストイックな突き詰め方をしてないと目に止まる踊りはできない。今回のASTERISKでは、モチベーションが低かったり、手を抜く人が誰もいないというのは、本当にすばらしいことだと思います。イベント作りの悩みのほとんどはそこですから。

AKIKO

やっぱりそこですよね。小さなことでも、大きなことでも、モチベーションがあれば物事は成り立つなって思うよね。

ダンサー以外の方が協力していただくことですごく助かることはたくさんあるから、ダンサーじゃなきゃ嫌だということではなくて、いわゆる、ダンサーという人間が頑張れることで、もうちょっと形にできることがあるんじゃないかって思う。

私も浩一郎くんも、“踊りと仕事”っていう二面性は持っているわけで、フィールドの在り方は様々で、それがどういう表現でもいいんだけど、踊り手としても、みんなから認められるような表現の伝わり方ができるのが理想ではある。そのために自分に何ができるか。

技術じゃなくて、踊り方や、人として素敵な人は踊りも素敵になるだろうし、そういうところで、自分だけの表現ができるといいなと思う。本当に、浩一郎くんのおかげで助かることいっぱいあるもんな〜。

浩一郎

それはお互い様ですよ。僕は、こんなキャスティングできないですもん(笑)。いや〜、やっぱり、AKKOさんの歴史と性格、人柄、人望ですね。

「エポックメイキングな企画書をお待ちしております。」


浩一郎

そもそも、このASTERISKという公演がなぜ行われることになったのか、お話しておきますか

AKIKO

ASTERISK一番最初は、ASTERISKの主催、パルコの中西さんからのメールでした。 「エポックメイキングな企画書をお待ちしております。」と。

意味は画期的なことなんだろうけど、ちゃんと調べようと思って調べてみたら、“そのジャンルに長けて、歴史を変えるような卓越した企画”ってことらしく、一週間ぐらいで提出して欲しいと言われて「うそーん!」みたいな(笑)。

一週間で資料を作らなくちゃいけなくて蕁麻疹を出しながら作業して、そもそも実際にできるのかどうか、他のイベントとも重なっていたし、どうしようみたいな・・・。

でも、蓋を開けてみると、達也くんが、ASTERISKのために2ヶ月間レッスンをすべて休んで臨んでくれている現実。それくらい達也くんの演出に熱意があって、しっかりしているから、その“長谷川達也”を一度味わってみたかったり、勉強したいという人が今回出演することに対して、モチベーションになっているところも大きいと思います。

たぶん、ダンサーが他のダンサーの作品を観る感覚って、ある人はあるけど、自分のことに一生懸命で、いっぱいいっぱいになっている人は多いと思う。でも、他から学べる、気がつけることもある。

今回のキャスティングは、過去に自主公演をやったことがあって、どれだけの人がどれだけのことを手伝ってくれたらどれだけ助かるのかをわかっていて、実際にチケットを売らないと成り立たないという興行の現実も踏まえて、そういった大変さを知っている人。そして、秀でた一面性をひとつ持っている人たちに声をかけました。それが条件というか、目安になりましたね。自分たちの自主公演というくらいの気持ちで作らないと成り立たないと思ったから。

たとえば、スタッフがいることに対しての感謝とか、リハーサルに対する参加の仕方とか、同じ感覚の意識を持って、同じことに対して臨めれば、迷惑かけなくて済むなっていう気持ちがありました。あとは、ちゃんとストリートダンスを入れたかったですね。

浩一郎

確かに、公演をやったことがないと、その感覚の共有は難しいと思います。

クオリティとビジネスを両方ダンサーだけで成立させる。


AKIKO

浩一郎くんとやることになった流れとしては、ASTERISKの脚本をお願いすることだけを最初にお願いしたくて、相談したのがきっかけだよね。

浩一郎

はい、「中西さんからこういうオーダーがきて、どうしようかなって思ってる」と長電話をしましたね。

AKIKO

「やりたいことはこういうことなんだけど、その脚本をお願いしたい」と話したら、「だったらDAZZLEで演出すれば、ちょうどリンクできますね。」「あ、じゃあ(笑)。」と。そこはすぐだったんだよね。でも、それからいろいろあったね。

浩一郎

そうそう、紆余曲折があり、僕らDAZZLEも年明けに舞台があったりして、年末年始には1回動きが止まっちゃいましたね(笑)。

AKIKO

あの時はパルコさんも気が気じゃなかっただろうな〜(笑)。興行として成り立たせなきゃいけないチャレンジだったから・・・。東京国際フォーラムでやることにもこだわったよね。

浩一郎

そうですね。“何をもってエポックメイキングとするか”というところで、「国際フォーラムでストリートダンスの舞台をするのは今まで誰もやっていない、じゃ、それがいいんじゃないか。」という話になりましたね。

動員する時に、ある程度、動員力のあるタレントさんをキャスティングしたほうが確実ではあるけれど、ダンサーだけでやったほうが、よりエポックメイキング感はある。ダンサーだけで国際フォーラムでやるほうが、動員のリスクを別にすると、意義・価値があることだなと。

AKIKO

浩一郎くんが「社会的にそういうことが価値があって、今後の可能性が拡がるんですよ、なぜならば…」ってサラッと言ってくれたから、「よし、やっぱりやってみよう!」って思えたよ。

浩一郎

ダンサーだけでやるということは、今回の本番が終わった時にどうなるかわかると思いますけど、けっこうすごいことですよね。クオリティとビジネスを両方ダンサーだけで成立させられたなら、この先、ダンサーがこういう大舞台を作っていくチャンスを与えられることも増えるでしょうし。

AKIKO

うん、間違いない。でも、大変(笑)。

浩一郎

ASTERISKスタッフもそうだし、ダンサーたちもそうだし、いろんな人が無理をして、ある意味ダンス界のために、そして、それが自分たちの将来に繋がるという気持ちで参加してくれているんじゃないかなと思いますね。今回成功したら次もまたやろうという話になるかもしれないし、パルコさんだけじゃなく、他の企業さんもそういうバックアップをやってみようって思ってくれるかもしれない。

やっぱり形にならないと、誰も納得しないんですよね。「こうしてみたい」と言ってるだけじゃダメ。どんなに小さい形でもいいから形にして、それを土台にしてステップアップして、また上にいってと繰り返していかないと、積み上がっていかない。ふわ〜っとしたものをふわ〜っとやっていくだけでは、上にいけない。それは、やっぱりもったいない。

でも、形になるものを創るということはものすごく大変なので、なかなかそこに踏み出せない人は多いんですけど、最終的には、それをやったほうが、いろんな意味で得だったり楽だったりすると思うので、無理をしてでも頑張ったほうがいいですね。

AKIKO

頑張って形にしただけで終わってしまうのか、またそこから次に見えるものを残せるといいなって思う。形にすることは1回目より2回目のほうが大変だったりするんだけど、やらないよりかは、やってみるほうがいいし、やる時にみんなのモチベーションがあることも大前提だね。一度創ったものを、またいつか、コンパクトバージョンでもいいから再演できることがあったら、いいよね。

はたして、今回のASTERISK、どういう結果になるんでしょうか!?

浩一郎

楽しみですね。 僕は作品の内容・クオリティに関してはまったく心配してないです。あとは、これを感じられる人がどれだけいるかということですね。

ダンスを知らない人でも、衝撃を受ける“何か”。


浩一郎

僕は、わかる人にだけわかればいいというやり方じゃなく、より広く伝わるように創ってます。DAZZLE自体、基本的にはそういうスタンスで、狭いところに向けて創るのはもうあまり興味がないというか、ダンサーにだけ向けて創るという気はないです。作品のわかりやすさにもいろいろあると思いますが、ダンサーじゃなきゃわからない表現はしないですね。

特に今回のASTERISKは、これだけのメンツが集まっていい踊りをすれば、ダンサーがいいと感じるのは間違いない。あとは、ダンスを知らない人でも、衝撃を受ける“何か”がないと、やる意味がないと思うんですよ。

AKIKO

ダンスをしている・していない関係なく、誰もが“いいものはいい”と感じるその“いい”の感覚に触れたいよね。

「カッコいい」「ヤバい」「なんか、すごかったー!」「踊ってみたい!」「憧れる!」とか、なんでもいいんだけど、何かしらに引っかかってくれたら嬉しいよね。

浩一郎

ASTERISKダンスにあまり触れてきていない人たちのほとんどは、今回出演するような本物のダンサーたちの本気の踊りを観たことがないと思うんです。

テレビとかで、アーティストが踊ってるのを観て「ダンスってこういうものなんだー。」「好き。」「嫌い。」と感じている。でもそれって、僕らからすると本当のダンスじゃないって思うし、もっと言ってしまうと、アメリカのミュージカルが日本で上演されるのを観ても、一般の人はわからないかもしれないけど、ASTERISKに出る人たちに比べたらレベルが低い。でも、日本ではそれがすごいモノなんだと思われている。

身近に本当に世界のトップレベルのダンサーがいるのに、それを知らないのはもったいないですよね。それはストリートダンスというものがメジャーな場でちゃんと表現されていないから。ダンスを知らない人でも、本物のダンスが見れる場所を作りたいという思いで、今回も制作しています。

テレビで見るバックダンサーだって技術はうまいですけど、アーティストのためのダンスだから、どうしても彼らの本気のダンスじゃなかったりする。トップダンサーが、本気で創る舞台って、いわゆる自主公演になるんでしょうけど、そうなると、観れるのは限られた人だけになってしまう。

ASTERISKに関しては、ストーリーはあるけれど、ワンシーン毎にガチガチのマジ踊りですからね。


AKIKO

しかも、「あなたの見せ場はここです!」っていう流れで明確になっているので、どの場面もそりゃ本気だよ。それに、自分のシーンと踊りが合致した出番があるのは、嬉しいよね。

浩一郎

はい、あらかじめ役が存在していて、そこにダンサーを割り当てていくのではなくて、「この人たちが輝くにはこういうシーンがいいんじゃないか」と、考えて、僕が演者を想定して脚本を書く、いわゆる当て書きをして全体を構成しています。

“ダンサーがいかに輝くか”から逆算して創ってる公演なので、そういうものを一般の人にも観て欲しいです。商業公演と言われるものでこんな形で創られているのは、世界でもASTERISKだけなんじゃないですかね。そういう風にダンサー本位で創られている商業公演はないと思います。

あとは、スタッフもダンサーがほとんどですしね(笑)。

AKIKO

そうだね。こういうクルーであることは、他の商業公演にはないかもしれないね。

浩一郎

ダンサーをリスペクトして、その人たちが踊りやすいように、動いてくれるスタッフがいるなんて、なかなかないじゃないですか。ダンサーひとりひとりが主役として、舞台に上がってもらえるように、周りの人たちが頑張ってくれるというのは、貴重。そんなASTERISKを世の中にぶつけてみて、どんな反応があるかっていうのもチャレンジですね。

僕がやるべきことは、ダンスを今までと違う次元に連れていくこと。


浩一郎

ASTERISK僕は、最近はDAZZLEにおいてもそうしているんですが、今回、一応、脚本家とクリエイティブディレクターという肩書きにしています。肩書きはなんでもいいんですが、そういうダンサーだけではない肩書きの人が作品作りにちゃんとスタッフとして入っていることが、けっこう大事なんじゃないかと思っています。

今回の公演で僕がやるべきことは、ダンスを今までと違う次元に連れていくことだと思ってるんですよね。

たとえば、シルクのプロデューサーの本を読んだんですけど、シルク・ドゥ・ソレイユはサーカスだけど、サーカスがやってこなかったことをやろうと思って今の形が生まれたそうです。それまでのサーカスでは会場の中でモノを売ったり、動物が出てきたり。そういうサーカスらしさを全部排除して、アスリートのアートというものに昇華したと。

そして、僕は、格闘技が好きなんですけど、K-1も近いですね。もともとキックボクシングというマニアックな世界で行われていたものに、「テレビでやるなら血が出るとみんな引いちゃうから、肘は禁止にしよう」と、肘打ちを禁止にして、さらに日本人がほとんどいないヘビー級の外国人を中心としたものに変えてしまった。だからあれだけ大きなイベントになったという背景があります。

それって、プレーヤーからは絶対に出てこない発想なんですよね。その競技を本気でやっている選手が、「じゃ、肘打ちを禁止にしよう」って言えないし、言い出しても、誰も聞かない。プレーヤーじゃない人が関わっていると、変えられる。そういう人がストリートダンスに関してももっと増えてくれたら、もっと違う表現、形ができていくんじゃないかなと思います。だから、ある程度、僕はそれを意識的にやっていきたいなと思っています。

そういうのって本当はいっぱいあるはずで、野球やサッカーで言えば監督の上にゼネラルマネージャーとか、スポーツディレクターとかがいて、「これで本当に客は入るのか」「世の中にとって価値があるのか」とか、勝つか負けるかではない、ビジネスやカルチャーとしてどのように世の中に受け入れられていくのかを、もっと大局的な視点で考える人たちがいる。舞台における監督が演出家だとしたら、さらに上の視点を持った人が必要なんじゃないかと。

だから、プレーヤーがすべてをやるのは難しいので、プレーヤーじゃない人がもっとこの世界を変えていく意識で関わっていくべきなんです。それが難しいとしたら、僕もダンサーですし、ダンサーでもそういう意識を持った人が増えてもいいと思う。

ASTERISKもまさにそうで、ダンサーだけが考えたら「ストーリーなんていらなくない?」という感じもあると思うし、ダンスだけひたすらやれば、それがダンサーの本質だという風になりやすいと思うんですけど、世の中の普通の人からの視点で考えると、ちょっと違う発想が必要で、もしダンスが大きく発展していくのであれば、そういうことを考えていかなくちゃいけないのではないかと。

そういった意味で、今回の公演が実現するのも、僕が関わっているからだという部分はあって、それは僕がすごいとかいうことではなく、ダンサーのことも分かっているんだけど外側からも考えられるという特殊な人間だからだと思うんです。だから、もっとそういう人が増えたらいいなぁと思うんですよね。

一方で、必ずしもストリートダンスシーンが大きくなる必要があるわけではないとも思っていて。

僕も、もともとアンダーグラウンドで踊っていたので、そういう世界のすばらしさが残っていくべきだと思う。でも、もっと違う形のストリートダンスの表現の仕方があってもいいんじゃないかなと思っているんです。

DAZZLEも公演をはじめたときに「あれはダンスじゃない」と、散々批判されましたし、ストリートダンス界から白い目で見られる部分もたまにあるので大変なところもありますけど、新しいことをやるっていうことは、そういうことなんですよね。既存の概念を破壊するわけですから。織田信長とか坂本龍馬とか、なんでも世の中を変えた人は最初は奇人・変人でしかない。そう見られることを恐れずに、“誰もやったことがないからおもしろい"ということをやっていかないとなと思います。

ASTERISKによって0が1に。


AKIKO

自分はキャスティングを仕事にしているけれども、“何のために、誰のために”というのが明確にならないとやっていけないことが多いなと感じる時がありますね。

これだけの人をキャスティングして、この企画をやりました、人に伝えて、いろんなことが起きて、ひとつひとつ対応していく・・・誰のため?

パルコの中西さんに応えたいという率直な気持ちもあれば、こういう機会に浩一郎くんとダンスのビジネスのビジョンを描けたことも、嬉しいことです。シビアで客観的な意見やそういう視点は本当にありがたいし、助かります。

浩一郎

やっぱりお金を稼ぐって、大変なことですよね。

ダンスを仕事にしていくなら、もっと仕事ってどういう仕組みで成り立っているのかを知らなきゃいけないし、どれだけその仕組みの中で川上に行けるかなんですよね。

ずっと、一番下で使われて、声がかかるのを待っていることだけを繰り返していても、大きくなっていけないので。

それこそ今回、ダンサーの達也さんが演出をやっていること自体もエポックメイキングですよね。普通、どんな舞台でも演出家がいて、ダンサーに振付を頼まれることはあっても、ダンサーがこの規模の舞台の演出をやるなんて今までないですからね。

そもそも、今回のパルコさんからの「エポックメイキングをやりたい」という提案自体が、今の時代めずらしいと思います。

広告業界もそうですが、「おもしろいもの作ろうよ」よりも、「どれだけ効率的、効果的に商品が動くか」が優先されますし、ビジネス的な成功するかどうかの方がプライオリティの上位にくることが多い。

ASTERISKのクオリティに関しては、日本のダンスの商業公演では頂点です。だから、ちゃんとそれをビジネス的な成功に結びつけないといけないし、それがダンサーにとっても一番ありがたいことですからね。最終的には。ASTERISKによって0が1になったわけで、こういうイベントがどんどんこれからも行われればいいですね。

AKIKO

いつかは、手売りじゃなく一般の人でチケットがはけるとかね。

ASTERISKも空席はまだあるからね。動員面で成功するかどうかの緊張感たるや、最後まで気が抜けない。タレントのファンクラブイベントだとすぐに完売するだろうけど、我々はそうもいかないからね。

浩一郎

でも、それで成功しないといけないと思います。

タレント力で集客するスキームから脱却できないと、結局ライブエンタテインメントとしてクオリティが上がっていかない。日本の舞台で世界に通用する作品が創られないのはそういうところが大きいと思います。

AKIKO

確かに、そうだね。そう考えると、今回は本当にいいチャレンジだよね。

浩一郎

そうですよ。これは世界的に見ても、ダンス公演としてのレベルは高いと思いますよ。あとは、それ以外の部分でビジネスとしてうまくやれるか。まあ、日本は舞台においては未だに海外コンプレックスが大きいですからね。

AKIKO

だからこそ、海外に持っていきたいね。このチャレンジの延長でそういうことにも繋がれたらいいね。

今や、一昔前のスーパーキッズダンサーが大人になって、世界で活躍したりしてる時代だもんね。これからもそういうダンサーが増えていくかと思うと、仕組みとしては、ダンス経験者が増え、クオリティが上がって、表現力、エンタテインメント力、思考能力、制作能力も高い子たちが育っていくわけですから、その上の世代も含めて、それぞれの世代でできることは必ずある。だから、それぞれがそれを追求していって、みんなで上がっていけるといいよね。私もいろいろ経験したからこそできるキャスティングをしていきたいし、みんなでそういう風にしていきたい。

浩一郎

そうですね。頑張らないと。

僕は、いい作品を残したい。ダンスの世界で「あの人かっこ良かったよね」っていう感想はよく聞くけど「あの作品ってよかったよね」っていうことはあまりない。それだとその人と同時代に生きてないと観れないし、人間は必ず衰えるという宿命もある。作品は永遠に残りますからね。ダンスは永遠じゃないからおもしろいっていう側面ももちろん、ありつつ。

伝説的なブロードウェーミュージカルの「RENT」も、初演前に演出家が亡くなっているのにずっと上演され続けている。そういう作品として残るものがストリートダンスからもどんどん出てきたらいいなと思います。そのためにも、やっぱり演出が大事。ダンスじゃない部分の強さももっと出てこないと難しいと思うので。

AKIKO

常に開拓中だけど、みんなもそう思って生きてるんだと思う。

浩一郎

ASTERISKそうですね。すでに舞台でストリートダンスをやっている人はかなり増えてますからね。やればやるほどレベルは上がるだろうし。将来、すごいダンサーがすごい作品を創るのが楽しみですね。長生きしたいですね!

AKIKO

2050年とか、観たいね〜!でも、それまで忙しいんだろうな…(笑)。 なので、これからもよろしくお願いします(笑)。

浩一郎

こちらこそ、よろしくお願いします(笑)。

photo by imu
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