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CHITO 〜人生ヒップホップ 脳内パラダイス〜
CHITO 〜人生ヒップホップ 脳内パラダイス〜
“脳内パラダイス・チト”ワールド炸裂。日頃から、“僕の人生はヒップホップ”と語っているというCHITO。そんな彼のフィルターを通った表現は心地よく、ファンタジーかつエネルギーに満ち溢れているものだった。中でも、生徒に向けて送られた言葉はあらゆる表現者にも響くのではないだろうか。そんなメッセージの詰まった一時をご紹介しよう。きっと読んだ後、あなたのそばにもピコピコ星人が。。。

CHITOCHITO

本名、冨樫チト。フランス童話「みどりのゆび」の主人公、チト少年にちなんで両親から命名される。SPEEDE STAメンバーとしてAOYAMA NIGHT時代からのヒップホッパーとして活躍。コミカルかつアートを感じさせるパントマイムを取り入れた独自のスタイルは見る者の心をくすぐる。ダンサーとしてだけでなく、時にはデザイナーとして、時には吉祥寺のハモニカ横丁のキャラクタースタッフとして、時には井の頭公園を放浪する旅人として様々な分野で創作活動をするアーティストである。

自分の文化を続ける。

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えーっと、まずさっそく始めたいんだけど・・・え?それ何!?

CHITO

CHITOこれ (写真参照)、UMU (凝llection)で作ったの。今度僕のナンバーの生徒が全員付けて、“非・人間的”にしようかなって。

僕が描く絵って、大体手が長いのね。それをケッちゃん (KETZ) に「何で手が長いの?」って突っ込まれたことがあって、「僕の理想なんだよね。指とかこれくらい長いといいな。」って言う話をしたりして。たまたま、ケッちゃんと生地選びに行ったときに、この生地と出会って、これを作っちゃったんだよね。肌触りがいいでしょ。僕、その全身タイツも持ってるもん (笑) 。

CHITO目的としては人間に見えないようにしたくて、極力皮膚を隠したかったの。こういう皮膚の人ですよ〜、って見えるくらい。あと、僕がなで肩だから、もう少し手があるといいな〜っていつも思ってたんだよね。ヒップホップ (ダンサー) ってのは、猫背で、手が長くて、黒人独特の手のラインがいいなっていうイメージがあって、理想の姿ってあるじゃん。例えば頭がもう少し小さい方がいいなとか、そういう自分のベストバランスに関して、単純にそのまんま描いたり形にしたり。

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イメージと現実がかけ離れたような気もするけど (笑) 。でも、CHITO君のファッションやヘアスタイルとかからも、そういう信念みたいなものを感じるよ。

CHITO

CHITO僕の中の文化なんだよね。髪型にしてもインパクト重視かも。漫画とか見てて、「あ、これいいな!」って描いてきたけど髪型もやっとこれに落ち着いた。これ以上はもう思いつかない (笑) 。

摩訶不思議な“脳内パラダイス”へようこそ。

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今回ジール発表会の演出も手掛けるけど、テーマになっている“脳内パラダイス”のパンフデザインも素敵だね!

CHITO

ん〜、ホント自分の文化圏なんだよね〜。“発表会”っていう形をとっているけど、何をやりたいのかっていうと・・・

“人は誰でも心の中にその人だけの世界を持っています。
その世界を他人が外から覗いたくらいではけしてわからない小さな世界です。
その人だけの世界。
そういう自分だけの世界をゆっくりと育てていくこと。
自分だけの小さな世界は大切にしなければいけないと思います。
同時に、他人にも同じようにそういう世界が在るということをよく理解して、
できる限り大切にしなければならない。
本来ならば自分だけのために存在している自分だけの世界で在るべきものを今回外に出してください。“


CHITOっていうのが“脳内パラダイス”なの。

僕の場合、心で考える人というよりも、結構頭なのよ。だから頭がパカっと開いたイメージが“脳内パラダイス”なんだけど。今の言葉は心で考える人用の言葉で、頭で考える人用の言葉は、もっとハッピーでオッペケペーな感じで別にあるんだけど。

CHITO元は佐藤さとるさんっていう人がいて、「だれも知らない小さな国」っていう童話があるのね。コロボックルシリーズって言う、アイヌに存在する小さい人たちが出てくる話。日本書紀にも少彦名命 (スクナヒコナ) って名前で出てきたりしてるよ。 (と、話しながらメモ帳をちぎって作ったものを指しながら) 多分僕の中での存在感的にはこんな感じ。(写真参照。) でも、これは“ピコピコ星人”って言うんだけどね (笑) 。その本のあとがきに書いてあった言葉を、僕なりにアレンジしたのがさっきの言葉。皆大切にしている世界があって、佐藤さとるさんにとってはコロボックルがそうなんだろうね。それで今回はそれを、やりたいねって。

センスの遺伝子・・・この親にしてこの子あり。  

CHITO

  CHITO
 
山梨県にあるCHITOの実家。表札には「togashi」と彫られてある。
小さい頃、自分の中には “みんなのうち”っていうのがあったの(笑) 。小さい頃の夜ってさ、すんごい未知な時間じゃん。しかも、うちの実家って特に周りが真っ暗だったのよ。あ、うちの実家のアルバム持ってきたよ。今の季節だとこんな感じかな。

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すごい!これ実家!?

CHITO

CHITOすごいよね。表札もポストも家も父親が作ったの。 (※編集部注 : CHITO氏の父親は園芸と木工を行っており、祖父は植物学者。) 結構、自分でも衝撃的なんだけど、でもすごく素敵でしょ。僕にとってはここでの生活以上のものはないね。で、冬になるとこうなるの。 (写真参照。) 薪もあったりして、かっこいいでしょ。ここで過ごした中学校までの14年間は、本当に素晴らしい。ホント最高だった。


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すごく素敵でお洒落だね。

CHITO

うち、両親のセンスがいい。母親がすごく凛とした人。父親は職人だね〜。と言っても、よくあるきりっとしたイメージではなくて。多分ね、うちの父親の血は蜂蜜なんだよね。この間妹と話しててそういう結論が出た。何やっても、あまーいし、とろーんってなっちゃう (笑) 。楽しくて仕方ない人。僕のハッピーな部分は全部父親からだね。「寝たら忘れるよ〜」みたいな (笑) 。

なんだろね。すごくナチュラルなの。ここでの時間がベースにあるから、取り立てて、エコだ、自然がどうこうっていう“対自然”っていうよりも、もう自然が自分の中にあるんだよね。自然と生活してきてるから。

  CHITO
 
名前の由来になったチト少年が主人公の絵本「みどりのゆび」 (左) 。妹ましろさんの名前の由来になった絵本「子うさぎましろのお話」 (右) 。

そうそう、この家の裏に写ってるモミの木さ、今は4本くらいしかないんだけど、僕が生まれた時に両親が20本苗木を植えてくれたの。毎年クリスマスツリーとして1本ずつ使えるようにしてて、うちのクリスマスは完全にこのモミの木。二十歳まで一緒にクリスマスを迎えられますようにって。でも、二十歳になった時は、もう切れないくらい木が大きかったけどね(笑)。

でも本当にパーフェクト。逆に、これ以上の困難なものが僕の中にはないんだよね。妹も僕も、結局この世界で育ってきたから、この世界が素晴らしすぎて、最近は「こんなに素晴らしかったんだよ」っていうことを表に出すのが自分たちの使命なのかなって感じになってる。

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その“素晴らしさ”って、言い換えるとどういう言葉になる?

CHITO

・・・“僕”かな。それへの証明になるのは。結局、母親は全部僕と妹に仕事もせずに打ち込んでくれたから。元々デザイナーなんだけど、ものすごく才能があって、すごいなって思う。その才能を全部僕らに注いでくれた。その結晶みたいなものを自分で出したいなっていう感覚はあるよね。そこにとらわれてもいないけど。

チト少年の感覚に転機が・・・。“彼らに洗脳された。”

CHITO

でも、そんなハイセンスの母親の感覚の中に「米米クラブ」っていうのもあってさ (笑) 。ここでの生活って、音楽がいらない世界なんだよね。今、音楽に溢れてる世界にいるけれど、ここに帰ると本当に音楽がいらない。雪の時はしんと音がしないし、葉っぱの音だったり鳥の声だったり、家も木だからいろんな音がする。薪ストーブだから薪の燃える音とかね。いわば人工の音が何もいらなかった世界に、僕が中学生くらいの時、いきなり「米米クラブ」ってものがボンってやって来た。うちの母親、米米クラブが大好きで、ファンクラブに入ってるのよ。たぶん僕のおかしな部分ってたぶんそこだと思うのよ。それがなければ、もっとしっかりとした男になってたと思う (笑) 。そこに、あのッパーン!っていう人たちがまったく音楽情報のない世界にやってきた。母親は毎日のようにビデオとかを見るわけよ。本当に彼らのライブとかって面白いから。あとは、石井竜也っていう人間がものすごくて。なんて言うんだろう・・・。変な言い方をすれば、びっくりするくらい彼らの世界に毒されたというか、洗脳された (笑) 。ホントに両親の影響って大きいなと思うよ。でも、人付き合いは苦手だよね。


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苦手だと思うのは自分の感覚だからわからないけど、CHITO君は人からというよりも、何かの物事からの感覚に対してリアルな感覚を感じられるんだと思う。

CHITO

CHITOあ〜、それも“脳内パラダイス”なんだろうね。この名前は生徒が「CHITOさんは、脳内パラダイスですね」って言われて付けたんだよね。よく生徒と自由にしゃべってて、僕がふと話に入ると、「今、CHITOさん脳内パラダイス中だから、それはまた別の話ですね〜」ってあしらわれる (笑) 。

僕は一生ファンタジーの世界で生きていきたい。  

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そのノートに書いてある言葉は何?

CHITO

これは発表会直前に生徒たちに送ろうって言う言葉を先に書いちゃったんだけど、

“出し尽くすこと。皆が主役だから。
光ること。大切なのは光ること。
ここから先は皆がどれだけ光るかということ。
人の心はそこに感動するのです。
最後まで走り続けること。”


最後には技術力ではないですよっていうこと。出し尽くすこと、だね。

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CHITO君だけが持つ感覚を愛してて、ついてきてる生徒だもんね。私にとってもCHITOくんのセンスはビンゴに近い。あと、ケッちゃんも。

CHITO

ありがとう。それぞれ違う感覚で、面白いなと思う。あと、ケッちゃんはちゃんと現実世界でも生きていけるしね。

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私から見れば十分現実世界で生きてる様に見えるけど・・・。

CHITO

いやいや、僕は一生ファンタジーの世界で生きていきたいのね。だから、今こういうことをやってる。ケッちゃんは僕とかが考えたことを形にしてくれる。僕は実行するよりも考えてることの方が好きで、「こんな面白いこと考えたんだよね〜!」ってそれで結構満足しちゃう。

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でも、その考えが面白いから、放つエネルギーが他人任せなところがあっても、人を動かしているんだよ。さらに言えば、CHITO君のライフがアートな気がする。家なんてジブリの世界だし。

CHITO

ジブリと言えば、ジブリの森 (=三鷹の森 ジブリ美術館) に、この間一人で初めて行ったのよ。今回の発表会の僕のナンバーのタイトルが、“夏のある日。ピコピコ星人が寒いジャングルでややこしや”っていうんだけど・・・その“夏のある日”っていうのが、公園に木漏れ日が指してるようなイメージなのよ。で、そのシーンを考えようと思って井の頭公園に行った時に、ジブリの前を通ったから一人で行ったんだけど、すっごい楽しかった。いわば“宮崎駿の脳内パラダイス”だね。彼がすんごい温めてる世界がそこにある。

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CHITO君の生きていく上や、ダンスをしていく上で、大事にしてることって何?

CHITO

CHITOやっぱり (頭を指差して) ここかな。僕の中では、傘で空を飛んでる人がいるし、ビルからビルをポンってジャンプしてる人がいるわけよ。でも、スーパーマンみたいに空を飛んでる人はいないの。でも、すごくジャンプができる人ならいる。

本来の意味とはまったく違うんだけれども、“人でなし”かな。僕の中では“人なんだけれど、人では無いもの”。まさに (黄帝心) 仙人とかね。だから、街中でよく止まったりするの。信号待ちの時とか。で、たまに生徒に見られるんだけど (笑) 。まぁ、そういう“非現実感”かな。メルヘンというか、ファンタジーというか。

あとは作品が好き。ここまでインタビューでしゃべっておいて、説得力が無いと思うけど、会話が苦手。メールとかの方が好きなのね。一回文章を書いて、推敲して、作品として形になるというか。そういう物しか心に響かない。・・・とか言いつつ、バトルとか見ると「わー!」ってなるけど(笑)。まぁ、作品として残るものに惹かれる傾向が自分にはある。それに必要だから技術力もほしいなって思うくらい。例えば、技術を磨いてバトルに出てみたいとか、勝ちたいとかではないんだよね。

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今度の発表会ではそういうCHITO君の今やりたいことが形にできるのかな?

CHITO

今回は僕の31年間の全てだね。やれる範囲でやってみたい。パンフレットの絵から演出から全部。でもね、これはカールスモーキー石井なんだよね。あの人は元々絵を描く人なんだけど、普通に画家として成立するくらいの才能があるのね。さらには、衣装・舞台デザインから、作詞・作曲、実際自らも歌って・・・って全部やるのよ。もんのすんごい才能だよね。母親はその才能や、画家としての色彩感覚に惹かれたみたい。最近だと「NE時」はね〜、ほんとにね〜、・・・好き (笑) 。ホントに好きなんだよ。何だろね、「NE時」を作ってる期間以上に幸せなものは当分出会えないんだろうなっていうくらい。ダンサー同士が、ある創作目的のためだけに集まれることっていうのはあんまりないじゃん。すんごい幸せだったと思うよ、皆。

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ねぇ、そのノートには他にも色々書いてあるんだね。読めない字で書いてあるけど・・・それは?

CHITO

これは今回の“脳内パラダイス”の決意表明。恥ずかしくてしょうがないけど・・・

“自分自身が信じたところに、
自分自身が中心になって、
周りを集中させるだけのパワーを持つ。
自分にパワーがあれば全て味方で、
どーんなに不安でも、
死ぬんじゃないかって思うくらいにやらないと、
人はついてこないですよー”

みたいな。リーダーに送る言葉だね。

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素敵な言葉をたくさんありがとう!
'08/03/21 UPDATE
interview by AKIKO
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